【住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人めよくらむ】


ここは、どこ?
鮮やかな色模様の蝶々がびっしりと張り付いている壁。宙にはたく
さんのコウモリが飛び回っていて、床には人の屍や肉塊がごろごろ
していて血だらけだ。回りの空気は薄汚れているけど、高い所にあ
る窓から光が差すと埃がキラキラひかってみえる。この空気を吸う
と身が汚れそうだと思って口を塞ぐけれど。けれど私はもう汚れて
いるのだから大丈夫だ。なんて気味の悪い部屋なんだ。黒曜のアジ
トも真っ青だわ!ふと下を見るとちょろちょろと、赤い血が床を這
っている。裸足だったら良かったんだけど、このパンプスは骸から
貰ったものだから血の届かない所へ逃げる。コウモリが頭上スレス
レに舞う。あ、れ?この部屋の中心に生き物が一切寄り付かない扉
がある。きっと骸はそこにいるだろうと思った。ドアに近づいてコ
ンコンとノックしてみるけどドアが堅すぎて向こうまで聞こえてな
いだろう。「骸、いるの?」ギギィと押し開ける。埃が更に舞う。
覗いてみる。人の影は、なかった。「骸、?」私は一人ぼっちにな
ってしまった。グラグラと地面が揺れる。あぁ私は恋人も仲間もい
つの間にか失っていた。あぁ、あたしの世界は崩壊していくんだわ
。蝶々もコウモリも人も埃も。そして私も。おちるおちるおちる、
くらやみにしずむ。


覚醒。夢から覚めると、少し黄ばんだ天井が見える。腕にはチュー
ブ。ここは病院らしい。まわりを見渡す。嫌な夢を見ただけなんだ
わ、良かった。私は何も失っていないんだ!「むくろ、」「なんで
すか?。」やっぱり貴方はここにいたんだね、良かった。置い
てけぼりにされたかと思ったわ。ねぇ骸・・骸の冷たい手が私を包む
。やっと、逢えた。




「おい、起きろ」
ゆさゆさと揺すぶられる。ペチペチと頬を叩かれる。な、に・・?目
を開けると白衣のおじさんがいた。「・・おじさん、だれ?」「俺は
通りすがりの保険医だ、知り合いの頼みでお前を保護した。」「あ
るひと?骸のこと?」「いや違う。骸は復習者に連れて行かれた。
お前はこの騒動に関係ないとして復習者には連れて行かれなかった
んだ。」「おじさん、骸は?私、さっき会ったんだよ?骸はいつか
えってくるの?」「会ったぁ?夢でも見てたんだろ。お前にはずっ
と俺がそばにいたんだから会う訳がねぇ。それと骸は多分帰ってこ
ないだろうな。復習者は厳しいんだ」「なぁお前、これから行く先
あるのか?ねぇんなら俺の助手にでもなんねぇか?」私は愕然とし
た。もう骸に逢えない。千種も犬にも逢えない。やはり私の仲間は
みんな、私を置いてけぼりにしたんだ。

それからもう一週間がたつ。私はシャマル先生のもとで助手をする
ことになった。時々、またあの夢をみるの。あの埃まみれの部屋の
夢。だけどね、

や っ ぱ り 貴 方 は い な い の 。





…夜の夢路でさえあなたは私と会ってくれないのですか?…





1111住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人めよくらむ

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星屑あつめ みつき