気持ちの良いくらいに晴れた日だった。わたしはそんな日にこうして庭先で紅茶を飲み、外の空気をゆっくり味わう、そんな空間が好きだった。 テーブルには洋菓子や和菓子を問わずクッキーやケーキ、お団子などが置いてあって、それを堪能しながらただ読書したり日光浴をしたりするのがお気に入り。それは自分の傍に彼がいるからだと錯覚しているからかもしれないけど、わたしはそれでも構わない。 「このケーキ、頂いてもいいですか?」 「えぇ、どうぞ」 そう言ってわたしの分のお菓子をいつも食べていた。喜怒哀楽はその顔から殆ど読み取る事は出来ない。だけど、たまに空いた時間にこうしてわたしのところの来てはお菓子を頬張り、少しの会話を楽しんでいた。わたしは共有することの出来る時間があることが嬉しくて、他愛もない話をしたりする時間、彼と一緒に過ごす時間すべてがなによりも幸せだった。 「さん、たまには運動したらどうですか?」 「あら、部屋に篭りっぱなしの人に言われる筋合いはないですよ」 「・・・・・それもそうですね」 「ふふ、そうですよ」 柔らかい風が吹くと、自然と気持ちが軽くなる。それは風のせいか、彼のせいか。 彼の傍ではわたしはいつだって笑顔でいられた。意識をしていなくても。自然と頬が綻んでしまうのだ。 彼は用意してあるコーヒーに角砂糖をボトボト落とし、それを抓んだスプーンでかき混ぜている。本当に甘党なのね、と彼の様子を目に入れてふっと笑うと、相変わらずな目と表情をわたしに向けた。 「何か、可笑しいですか?」 「いえ、本当に甘いものがお好きなんですね」 わたしと彼は別に恋人同士ではない。しかし、それに近いものを共有しているとお互いに感じていた。互いに気持ちを伝えてはいなかったけど、いつかは伝えられるものだと、心のどこかでそう思っていて安心していたのかもしれない。 「そう言うさんの唇は甘そうですね」 「え?」 「私、甘そうなものは何でも食べてみないと気が済まないので、」 「ちょっ 「失礼します」 一瞬でわたしの目の前に大きな影が出来て、唇が触れ合った。 こうして、キスなんてされたらここにあるのは安心だと思ってしまうのは当然だ。永遠だなんてことは夢見ていない。だけど少なくとも、離れてしまってもこうした時間がまた訪れると当たり前のように思っていた。 触れ合ったそれは、どのお菓子よりも甘美なものだったのを そして、そのとき添えられた彼の言葉を わたしは決して忘れない 今日も日差しは暖かい。わたしはいつもの様に庭先でお茶を飲みながら、読書をする。傍らには一人じゃとても食べ切れないほどのお菓子の数々。なんてことない、わたしの日常の光景。 そしてわたしの膝の上には、形の違うあなたがいるの。 だけど、 違うのは、確かなあなたが隣りにいないということ。 もうわたしの視界に捉えられない場所にいるということ。 決して、触れ合うことがないということ。 二度と「愛してる」という言葉を伝えられなくなってしまったこと。 何故、わたしに安心だけを置いて一人でいってしまったの? あなたらしくないじゃない。 いつだって完璧な考えで、策略で、わたしを傍に置いてくれたじゃない。あなたが完璧でないことが凄く嬉しいけれど、こんな証明のし方は心臓に悪いわ。 どうして、わたしのところにこんな白い粉のようなものが入った箱があるの? どうして、涙が溢れてくるの? わからない。わからないよ。 ねえ、今すぐにでもわたしのお菓子を奪いにきてよ。 いつ来てもいいように毎日あなたの喜ぶ甘いお菓子をたくさん用意しているの。 ねえ、悪い冗談はやめてください ねえ、 ねえ、 「っ、・・・・・・エル」 あなたの言葉がいまでも心の中に残ってるの。 あの時してくれたキスの余韻だって覚えてるわ。 わたしが愛の言葉を囁くことの出来ないようなところへ逝ってしまったあなたの方が充分卑怯だわ。あなたもそう思うでしょ…? でも、 それでもわたしは、あなたを想い続ける。 だってもう、どうしようもないくらいに愛しているんだもの。 エル・・・・・・・あなたは、わたしを愛してくれていますか? |
返事のない問いかけ
「 だって、いままでにいただいたものの中で、いちばん甘いです 」
企画サイト「恋慕」さま 1025/06
( かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな もゆるおもひを )
素敵な企画に参加させていただき有難う御座いました
蒼井 奏歌