好きで好きで堪らないと、全身が悲鳴を上げているようだ。




浅ぢふの をのの篠原 しのぶれど
あまりてなどか 人の戀しき




 一言、好きだとそのたった少しの短い単語を言えたなら、俺はどれ程救われるんだろうか。何時まで経っても答えの出るはずがないその疑問は、俺の中で延々と回り続ける。好い加減、止めたいとも思う。それでも一向にそうする気にならない、いや、なれないのは単に俺の諦めが悪いのか。

 相も変わらずコートの周りで騒ぐ人種には、どうも好意を抱けない。キンキンと頭にきて癪に障るし、応援してくれる気持ちは有難いが、此処まで来るとむしろ要らないと多少彼女らにとっては酷な事を思ってしまう。

でも実際、要らないんだ。彼女以外の言葉なんて。

「おい、ぼさっとしてねぇでさっさと練習しろ」

そんなことを呆然と考えながらコートの脇を歩いていたら、後ろから我が部長殿の叱責が飛ぶ。適当に返事を返しながらコートに入った。ボールを打つ先に、望んでもそう簡単には手に入らないものの姿があった。反対側コートの後ろのフェンスの、そのまた向こう。先程厭う人種だと思った彼女らの壁の後ろに一人の女を見つけた。

「(あぁ、どうして見つけてしまうんやろ…)」

どんなに賑わう人ごみの中でも、どうしてかいつも見つけてしまう奴。この間、偶々岳人と同じクラスらしい事が分かり、彼女は『』だと名前を知った。

どうして見つけてしまうかなんて、分からない。どうして考えてしまうかなんて、分からない。けれど思ってしまうんだから、仕方ない。

同じクラスの岳人ですら面識の薄い物静かな彼女を思うのは、難しいことだ。こちらが動かない限り発展することの無い関係で、むしろ完璧な一方通行の"知り合い"。考えて、思って、見つけて。いつ溢れ出してしまうか、分からなくていっそ怖いくらいだった。

それでも。

、」

いつかこの声が届くと、良い。いや、本当はもう  



「覚悟しとき」



サーブを打つ為に空高く放ったトスは、頭上に輝く太陽の光を帯びていた。





  忍んでなんか、いられへん





(テニスの王子様*忍足侑士)
ありがとうございました! 箭内玲奈@sphere*